微笑みと共に、世界は眠る
青年は胸の内で呟き始める。
一度でいいから、月というものを見てみたい。
昼とはまた違う夜の街を、月明かりに照らされる街中を、見てみたい。
争いが終われば、見れるのに。
戦場に立つという制度も、一般の人々が外に出られる時間の制限も、全てなくなるのに。
「少しでも早く、終わらせないと……」
街の人々を守るために、自由を取り戻すために。
たとえ相手が俺と同じことを強く願っていようと、それが敵なのならば俺は殺さなければいけない。
ふっと彼は嗤(わら)う。
額を押さえる左手に、力が込められた。
「俺は本当に、最低だ」
そうすることしか、出来ないなんて……。
( 本当に、人間って哀れね )
「――っ」
先ほど同じように、一瞬だが、青年は何かを思い出す。
靡く白銀の髪に、白に黒襟のセーラー服。
なぜかそれが頭に浮かんだ。
「何なんだよ、これ。全くすっきりしない……」
余計気分は悪くなるだけだ。
「どうした、暗い顔して」
廃墟ビルを出ると、青年と同じライオンとユニコーンが刻まれている紋章が左胸についている軍服を着た三十歳ほどの男と出会(でくわ)した。
その男も機関銃を肩に掛けている。
右の太ももには包帯が巻かれていた。
「いや、別に。それよりその足……」
「ああ、昨日やられちまった。もうすぐで陽が沈み始めると思って気抜いてたら見ての通りだ。すぐに相手は殺したが街外れだったからな。昨日は廃家で寝たのさ」
「そうだったのか。UGCに戻ったらすぐにちゃんとした手当てを受けたほうがいい。それと傷が治るまでは――」
「戦場に立つな、だろ。それ位わかってら」
そうだな、と青年は言う。
それからしばらく、二人は無言で歩き続けた。