微笑みと共に、世界は眠る
*
頬に当たる冷たい風。
徒(いたずら)に何度も靡く白銀の髪。
彼女は廃墟ビルの屋上で、一段上がっているところで、足を宙にたらしながら座っていた。
「……向こうでも、同じなのかしら」
静まり返ったかつての街中。星はひとつもなく、半月は薄い雲の中から少し透けて見える。
見渡す限り、紺碧の風景だ。灯りはひとつも見当たらない。
少女はそっと耳を澄ます。
耳に入るものは、僅かな風の音だけ。生き物の音は、何も聞こえない。
「夜は外に出てはいけない、か……」
争いは起こっていないのに、出ることを禁じられている。
それは暗闇を利用し、敵がこの街の中に入って来ている可能性が高いために。
そして万一奴らに出会ってしまえば――。
「年寄りや子供は殺され、女性の場合は強姦される危険性が高いなんて……」
自由のない世界ね、と彼女は続けて言った。
静かに目を閉じる。
なんの音もないせいか、まるで時が止まっているかのような感覚に陥っていく。
( ごめんね。 でも私、耐えられないんだ )
震えた声に、痛々しい笑み。
脳裏に浮かぶ、鮮明なその姿。