微笑みと共に、世界は眠る
「……やっぱりいた」
紫紺の空と、沈みゆく夕陽。靡く白銀の髪は少し茜色に染まり、美しい。
横目で青年を見つめるその翡翠色の瞳は、やはり虚ろだった。
「私の願いは、何一つ叶わないのね」
私の存在を忘れてしまう方が、きっとあなたは幸せなのに。
「君は、一体――」
「ねえ、むかし話、聞いてくれる?」
遮ったその言葉に、青年は一瞬驚く。まさか彼女が、自分から何かを明かそうとするなんて思わなかったからだ。
「むかし、話?」
「ええ。だいぶ前に、誰かから聞いた話よ」
それを聞き、彼は小さくため息をつく。
彼女自身のことじゃないのか……。
「聞かせてくれ」
ふわりと、風が二人の間を通り過ぎていく。
「これは可哀想な、二人の少女の話。その物語の始まりは、戦争が始まる少し前なの」
「戦争が始まる、前?」
だったら結構前の話じゃないか。最低でも六十年以上も前のことだ。