微笑みと共に、世界は眠る
「その島国はね、万が一のために地下避難所を各地にいくつも設備しておいたの。その中の一つに、二人の少女も避難したんだけれど……」
泣き叫ぶ赤ん坊の泣き声。五月蠅いと怒号を飛ばす誰か。まだ死にたくないと怯える学生たち。
「此処の地下街の性能はとても高いわ。でも他もそうという訳ではないの。いい例が、その島国の地下避難所だわ」
そこはただ広いホールと同じように、何もない。広場はもちろん、窓が一つ二つある箱のような家すら、そこにはない。医療施設ですら、ないのだ。
ただ人々が座るためだけの空間、とでも言った方がわかりやすいだろう。
外の光が射し込むわけもなく、取り付けられた明かりは十分にはいき届かず、そこは薄暗さに包まれていた。
それが余計、人々の心を蝕むのだ。
二人の少女は必死に、何ヶ月もその状況に耐え続けた。戦争が終わることを望みながら。
「一年半経っても、戦争は終わらなかった。小さな国はもう反撃することすら出来ないとわかっているのに、それでも他国は隅々まで攻撃していったのよ」
悲惨ね、と言って、目を伏せる。
「二人の内の一人は、もう心身共に限界に達していた」
肩まである黒髪は、その少女によく似合っていた。艶のある髪で、風が吹けばさらさらと靡く。
それが印象的だった。
しかしその自慢の髪は、戦争が勃発してから次第にその艶を失っていった。
「ある日、その子が外に出たいと言ったの。警報も鳴っていなかったし、少しでも彼女の希望に応えてあげようと、もう一人は彼女を支えて外に出たの」
二人が外に出たのは、夕暮れ前だった。近くには見張りの兵士が二人ほどおり、辺りを見渡していた。
「少し離れたところに二人は移動したけれど、そこに広がる風景は、最悪だった」
見るも無残な姿となった街。いくつもの死体が、積み上げられていた。