微笑みと共に、世界は眠る
「その光景は二人を絶望させた。そしてしばらくその場に佇んでいたら、一人の兵士が来て、彼女たちに言った。心を蝕んでいくあの地下避難所に戻れ、と」
黒髪の少女はふらりと立ち上がる。そんな彼女の姿に、嫌な予感が少女を襲った。
「すでに限界に達していた少女が兵士の拳銃を奪い取ったのは突然で、もう一人は一瞬何が起こったのか理解できなかった」
そう言って、目の前の少女は一呼吸置く。淡々と語る彼女は、一体どんな表情をしているのだろうか。
「そして彼女は言った。もう耐えられない、と」
こめかみに銃口を当て、微笑む。そして言った。ごめんね、と。
「少女は彼女を引き止めようと咄嗟に手を伸ばしたけれど、銃声は鳴り響き、彼女は倒れ落ちた」
即死よ、と続けて言う。
「そして残された少女は、地下で過ごし続けたの。生きる気力は、失ったらしいけどね」
ふう、と彼女は息をつく。
「これで終わ――」
言いながら振り返った少女は、口を噤んだ。青年の瞳から、涙が零れ落ちていたからだ。
「……どうして、泣いているの?」
「生き残った少女の気持ちを考えたら……」
彼女は黙る。じっと彼を見つめた。
「〝同情する〟と表現したい訳じゃないんだ。……それを経験した本人は自分の悲しみをわかったふりなどしてほしくないと思うかもしれない。それでも、心が痛くて……」
張り裂けてしまうぐらいに、痛いと心が泣き叫ぶ。そしてそれが形となって、零れ落ちた。
「他人のことでそこまで感情が入る人なんて、初めてだわ」
青年のもとに歩み寄り、見上げる。
「あなたは優しい人ね」
そっと、少女は彼の涙を拭う。でも、と続けた。
「だからこそ、全てを受け入れることができない」
彼女は俯く。
「優しい人は、崩れやすいから」
まるで何かを思い出しているかのように、少女は視線を落としたままだ。そんな彼女の姿を、しばらく青年は黙って見つめた。