微笑みと共に、世界は眠る


この辺りのはず……。

廃墟に身を潜める。屋根が半分ほど崩れていた。

此処から相手を見つけることができるかもしれない。

ガラスのない窓から少し顔を出し、青年は神経を研ぎすます。拳銃をしまい、肩に掛けていた機関銃を構える。
刹那、すぐ後ろで砂石を踏む音が聞こえた。

「なっ……」

「うわあああああ!」

叫ぶ少年。振り落とされる剣。咄嗟に、銃口を向ける。

( ―――ちゃん )

「――っ!」

瞬時にして脳裏に浮かぶ、ぼやけた誰かの姿。よく聞こえない、何かの言葉。
一瞬のためらいは、腕に走る痛みによって消え去った。

耳の奥にまで響く銃声。咄嗟だったために、十分に構えることができず、反動で彼は後ろに倒れる。

青年の上に覆い被さるように倒れ込んだのは、まだ少し幼さの残る少年。その少年の血が、彼の軍服を染めていく。
幸いなことに、腕の傷はさほど深くなかった。

「痛(い)っ……」

頭痛が彼を襲う。

「なん、だ……」

体を起こし、左手で額を押さえる。少年はまだ青年にもたれたままだ。

誰だ……。一瞬頭の中に浮かんだあの少年は、一体誰だ。

必死に思い出そうとすればするほど、頭痛が酷くなる。白銀の髪をしたあの少女の時と、似ていた。

じっと少年を見つめる。無意識に、彼の体を抱き寄せていた。
少年の心臓付近からの出血はまだ止まっていない。青年の軍服はもちろん、手套も血で汚れている。

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