微笑みと共に、世界は眠る

＊

夕焼け色に染まる無数の廃墟。冷たい風が、頬に当たる。
新市街は静まり返っていた。廃墟ビルに向かう足取りは、速くなっている。

「もう少しで、彼女に……」

その建物が見えてきた時には、もうすでに彼は走っていた。

薄暗く、埃が漂う中、荒んだ階段をひたすら上っていく。錆びれた扉が見え、勢いよくその扉を開けた。

「っ……」

少し強めの風が青年の髪を靡かす。そんな風に、思わず彼は顔を伏せた。

「……どうして、来るの」

それはどこか悲しげな、彼女の声。

沈んでいく夕陽と、壊れた街並み。数メートル先にある一段上がっているところで、少女は座っていた。

先ほどとは打って変わって、穏やかな風が白銀の髪を靡かす。青の掛かった翡翠色の瞳は、じっと青年を見つめていた。

風が止む。静けさが、二人を包んだ。

「ひどいわね」

「……え？」

彼女は静かに目を細める。

「その軍服に染み付いている、誰かの血よ」

あ、と彼は声を漏らす。刹那、少年を抱き寄せた時の光景が蘇った。
彼の血で染まった、両手の手套を見つめる。その手は震えていた。

「……朝になれば、俺はまた……また、人を殺すんだ」

切れてしまいそうなほどに、唇を強く噛み締める。

幼さの残るあの少年を殺してしまった。俺が、殺してしまった。

とても久々に、青年は人を殺す罪悪感と恐怖感を覚える。