微笑みと共に、世界は眠る
「――……」
何か言おうとして、少女はその口を噤んだ。
関わってはいけない。私は彼と――〝異常者〟と、関わってはいけない。
だって私は、異常者に望んでしまうから。
関わってはいけない。それは分かっている。
「今日みたいに、この体を、この手を血に染めて……俺は……」
けれど私は、〝異常者(彼)〟を見放しにすることができない。
だから私は、
「……何が、あったの」
また手を差し伸べてしまう。私のことを唯一覚えていてくれる、異常者(彼)に。
「少年を、殺したんだ」
不意打ちだった。今時、剣で戦おうとする奴なんてほとんどいない。
だから俺は、全く考えていなかった。後ろから誰かが襲い掛かってくることなんて。
「いつもは涙なんて出ないのに、いつもは……後悔なんてしないのに」
青年は胸元を握り締める。噛み締められている唇は、僅かに震えていた。
「……俺はまた、何かを忘れてしまってる」
呆然と、彼はコンクリートを見つめる。
そして青年は言う。静かに言う。
「とても大切な何かを、俺は思い出すことすらできない」
悲しげな、声だった。