微笑みと共に、世界は眠る
「――……」
少女は軽く唇を噛む。眉間にしわが寄っていた。
真実を、教えてもいいのだろうか。けれどこのまま何かもわからない悲しみに浸り、その隙をつかれ、彼が誰かに殺されてしまったら……。
そんなのは、嫌。でももし、真実を知ってしまったら?
真実を知り、その悲しみは深まり、そして自分を責め、死んでしまうかもしれない。
「君は、何か知っているのか?」
悩む彼女の顔を、彼はじっと見つめる。
「……っ」
「お願いだ。教えてほしい」
苦しそうな青年の表情。少女の胸が、締め付けられる。
「……と、約束して」
「え?」
「自分を殺さないと、約束して」
絡まる二人の視線。今にも泣き出しそうなその顔に、彼は驚きを隠すことができなかった。
冷たい風が、頬を撫でる。陽は沈み、紫紺の空は紺碧に移ろうとしていた。
「約束する」
その眼差しを見て、彼女は静かに青年の前まで近寄る。
「どうかその言葉が、嘘となりませんように」
少女の手が、そっと額に触れる。彼の中で、何かが解ける音がした。