微笑みと共に、世界は眠る
意を決した瞳を、少女は嘆く青年に向ける。
隠された〝真実〟を教えてはいけない。けれど、全て私のせいだから。
「あなたは弟を殺した。けれどその少年は、あなたの弟であって、弟ではないわ」
とても優しく、彼女は自分の胸元に触れる。
悲哀なる異常者。私のことを覚えているせいで、あなたは完全に忘れることができない。
「弟であって……弟ではない? どういう、ことなんだ?」
彼は受け入れることができないかもしれない。この世界の真実を。
けれど、今の悲しみからは救われるかもしれない。
……私は、異常者(彼)を見捨てることができないから。
だから、言ってしまう。
「――この世界は、偽物(コピー)よ」
誰も知らない、この世界の真の姿を。
「そして此処にいるあなたたち人間も、〝本物〟にはなりきれない、〝偽物(コピー)〟だわ」
歪んでしまった世界に込められた、願いを。
紺碧の空を、星一つない空を、少女は悲しげな顔で見上げる。
彼女の言葉が、頬に当たる冷たい風が、止め処なく流れ落ちていた彼の涙を止めた。