微笑みと共に、世界は眠る
「何を言ってるんだ! 止血しないと、このままじゃ……!」
急所ははずれている。けれど放っておけば危険な状態となるのは目に見えていた。
「私は、死なない」
青年は息を詰まらせる。
伸ばした手は、ゆっくりと下ろされた。それを見て、彼女は目を伏せる。体の力が抜けていくのを、少女は感じた。
「………」
彼は僅かに震えてしまうほど、拳を強く握り締める。変わらず、苦虫を噛み潰したような表情だ。
少女の呼吸が浅くなる。瞼は、下ろされた。
「おい、おい!」
何が〝死なない〟だ! くそっ、今から止血しても――。
傷口に触れた、その時、青年はある違和感を覚える。
「……傷が、塞がっている」
あたかも撃たれていなかったかのように、銃弾の痕はなかった。
「だから言ったでしょう。死なない、って」
彼女はそっと目を開け、静かに言った。
「私は死なない。死ねないのよ」
悲しげに笑う。立ち上がり、スカートを手で掃った。
彼はただ呆然と、それを見上げた。
「だから私は」
冷たい風が吹く。白銀の髪が、血で汚れたセーラー服が、揺れる。
「死ぬ感覚だけでも、味わうの」
私が死ぬことは、消えることは、許されないから。