微笑みと共に、世界は眠る
「私ね、そこに載っているほとんどの国へ行ったの。その国の素晴らしさを見るために」
「………」
やっぱりおかしい。彼女の言葉が事実だとすれば、年齢と外見が違いすぎる。
怪訝な顔で少女を見つめる。彼女はぼんやりと、本を眺めていた。
青年はまたひとつページを捲る。
「――うわあ」
思わず声に出してしまった。
見たこともないほど立派に生えている大樹。淡い桃色の花びらは満開である。
「センネン、ザクラ……」
写真の右下には〝千年桜〟と書かれていたが、その名前を聞いたのは初めてだった。
この目で直接見てみたら、どれほど美しいのだろう。
しばしそれを眺め続ける青年。その瞳は、とても輝いていた。
けれどそれとは反対に、少女の表情はとても苦しそうである。
「私のせいだ……」
それはとても、小さな声だった。
「何か言った?」
少しの間の後、いいえ、と彼女は首を横に振った。
そして少女は言う。目を伏せながら言う。
「私がその国にいた時……戦争が勃発したの」
冷たい風が、二人の間を通り抜ける。黙ったまま、彼は彼女を見つめた。