微笑みと共に、世界は眠る
「彼らは彼女(わたし)に見せたの。壊される前の美しき自然を。代償として〝世界〟を蝕んでいく技術がまだうまれていない、平和な世界を」
そして、彼らは言った。まだ何もない、器だけのその世界に、今見せたものをコピーしてほしいと。
「私は言われた通りに、世界の〝中身〟を創っていったの。だってうまれたばかりの私には、それを拒む理由など、なかったから」
そして彼ら研究者たちは、本物の世界でかろうじて生きている全ての人間の器(コピー)を創っていった。
亡くなった者の遺体をも使い、数え切れないほど多くの人間(コピー)を創りあげた。
「私がこの世界に生命(いのち)を吹き込もうとした時、彼らは私に言った。どうしてこの世界を創ったのかを。どうして本物の世界は壊れてしまったのかを。そして彼らは願った。この世界は、どうか歪んでしまわないように、と」
胸当てのスナップをつけ直し、緋色の石を隠す。
「〝私〟はこの世界そのものであり、そして最後の〝希望〟でもあるの」
本物と同じになってしまわないように。人々が永遠に幸せであるように。
そして、自然も壊されてしまわないように。
彼らは何度も彼女に言った。
その願いが、その言葉が、いつか彼女を苦しめてしまうとも知らずに。
「この石はこの世界に生命(いのち)を与え続けるもの。だから核(コア)に少しでも傷が入ってしまえば、この世界にも影響を与える。砕けてしまえば、この世界もなくなる」
( こんな世界、なくなってしまえばいいのかな? )
少女と初めて出会った時のことを、青年は思い出した。