微笑みと共に、世界は眠る
「……たとえ死ななくても」
掠れた声が、耳朶に響く。
「自分の体を傷つけるのは、やめるんだ」
少女を抱き締める腕に、力が入る。
「……それはできない。だって私は――」
「お願いだから」
彼女の声を遮り、青年は続ける。
「自分を、大切にしてくれ」
その言葉に、少女は目を見開けた。
自分を大切にしろなんて言葉、初めて言われた……。ああ、本当にあなたは、優しい人ね。
だからこそ、私とあなたは、
「――もう、会うのはやめましょう」
出会ってはいけなかった。
「私は、真実を教えてしまった」
あなたと同じくらい、優しい心を持った〝あの子〟も、此処までは受け入れてくれた。
けれど、世界の〝仕組み〟を受け入れることは、できなかった。
「ごめんなさい。あなたはきっと、何も知らない方が良かった。私と出会わなければ、あなたが悲しむこともなかったのに」
ごめんなさい、ともう一度彼女は言う。
「……っ、君は何も悪くない。だから、謝るな」
小さな体にそぐわない重荷を、彼女は背負っている。誰にもその重荷の苦しさを伝えることができず、ただ一人で抱え込んできた。
自分の世界が血で染まっていくのを、壊されていくのを、ただ一人で――……。