微笑みと共に、世界は眠る
「どうして?」
「……だってあなたは、〝私〟じゃないもの」
階段を下りて行く少女の後姿を見ながら、彼は心の中で呟く。
俺が〝彼女〟じゃないから、羨ましい? 意味がわからない。
俺は兵士なんだぞ? なのに二十歳にも満たないような少女が兵隊(俺)を羨ましがるなんて……。
小さなため息をついて、青年も少女の後に続いた。
いくら考えたところで、その答えを見つけ出せることはなさそうだな。
しばらくして、二人は階段を下り終わり、少し広めのホールへと出る。
一つの扉を通り抜けしばらく歩くと三つの入り口が現れた。
「あなたたち兵士は一番左でしょう?」
右端の入り口前に立って、少女は言う。青年は中央の入り口前に立っている。
「母の見舞いに、いつも病院へ寄ってから帰るんだ」
「……病気なの?」
「持病だよ。こんな環境だから、一度悪化すればなかなか良くならないんだ」
「他に家族は?」
「弟が一人。軍で訓練を受けている。まだ15歳なのに、早く俺のように戦いたいって……」
青年は目を伏せ、悲しげに言った。
「男性は20歳になれば必ず戦場に立たなければいけないけれど、それ以下の者に強制はさせてはいけない。そう決められているのに、珍しいわね、あなたの弟さん」
15歳なんて、まだ子供よ。
なのに死と隣り合わせの道を選びたがるなんて。
大勢の人々で埋まった地下避難所に響く赤ん坊の泣き声に、まだ死にたくないと頭を抱え蹲る少年少女たち。
死を恐れる叫び声と光景が、瞬時にして少女の脳裏に過ぎった。