微笑みと共に、世界は眠る
またしばらき歩き続け、地下通路の入り口を見つける。階段を下りる音が、中に響いた。
軍がつけた小さな明かりを頼りに、薄暗い地下通路を通る。時折ある崩れ落ちたところには、月明かりが差し込んでいた。
「静かね」
「……そうだな」
二人の足音だけが耳に入る。立ち止まってしまえば、まるでこの世界に存在するのは青年と少女だけかのような感覚に陥るだろう。
「もう少しだ」
月明かりが差し込み、階段が照らされていた。数段上り、旧市街に出る。
しばらく歩き進み、角を右に曲がる。何度かこの道を通ったことがあったが、月光に照らされ、また一風変わった景色に、青年はすごい、と胸を躍らせた。
そしてついに、他と比べ小さな廃墟が――レンガ造りの花壇が、目に入った。
「本当に、残っていたなんて……」
思わず少女は呟く。花壇に近寄り、彼女はしゃがみ、青年はかがむ。彼女はそっと、蕾に触れた。
「咲いてないか……」
残念そうに、青年は言う。
「……一週間ほど前は、蕾が垂れ下がっていたと言っていたわよね?」
ああ……、と言って、彼は蕾の変化に気づいた。