微笑みと共に、世界は眠る
「――ごめんね」
小さく、少女は笑う。
「あなたもきっといつか思うわ。私と出会わなければよかった、と」
刹那、彼の中で、何か壊れたような音がした。
「……っ、そんなこと!」
少し荒々しいその声に、彼女は顔を上げる。青年は悲しそうで、けれどどこか悔しそうな顔をしていた。
「そんなこと、俺は思わない!」
彼女に出会えてよかったと伝えたのに、それは本心なのに、彼女はその言葉を信じていないのだと、心の奥で言う自分がいた。
「君と出会い、俺は自分の浅はかさを知った。そして、無力さを知った」
この世界の真の姿を知ろうと、俺はこの世界を元に戻すことはできない。歪んでいくこの世界の中で、ただ生きていくことしかできない。
君を少しでも救いたいと願うのに、俺は何もできず、焦燥するだけでしかない。
「だからこそ俺は、君に出会えて良かったと、更に感じたんだ……!」
「………」
何か返事をしなければ、と少女は咄嗟に感じたが、何も、言葉が出なかった。
( ありがとう )
あの言葉は、あなたの言葉は、偽りでないと思ってる。だからこそ、私は嬉しかった。堪えることが苦しいほどに、嬉しさを感じた。
――けれど、あなたはまだ知らない。〝私〟が、憎むべき相手だということを。