微笑みと共に、世界は眠る
「生き返る、だなんて……」
その言葉に、ああ、と彼女は何かに気付いたかのような表情をする。
「ごめんなさい、言い方が悪かったわ。……たとえ〝中身(いのち)〟が絶えてしまっても、〝器(からだ)〟が無事である限り、また別の〝中身(いのち)〟が吹き込まれるのよ」
命に支障をきたす傷でなければ、新たに覚醒してもその傷は残ったままとなり、頭を銃弾で撃ち抜かれたりという、命に支障をきたす傷であれば、それは別の〝中身〟が入る前に、完全に癒される。
「……でもそれじゃあ、周りの人がその異変に気付くはずじゃ……」
「ええ。だからそれを避けるために、その〝仕掛け〟が発動した時、あなたたち(ヒト)の記憶は操作される」
その操作はあまりにも残酷で、けれど誰も、それに気付くことはない。
「私のことを忘れてしまうことと似たように、過去の記憶を曖昧にするの」
家族は何人いる、と大まかなことは覚えていても、じゃあそれは一体どんな顔、と聞かれると思い出すことはできない。
〝平穏な日常〟で起こってしまえば、大混乱を引き起こしてしまう仕掛けである。
「そしてもう一つ。それが発動すると同時に、人間の頭の中は〝過去のことを全く気に掛けない〟という風に、組み替えられてしまうの」
〝今〟を生きることに必死となり、過去を思い出そうともしない。けれどそれは、一部の者たちを除いて、誰もおかしいとは思わない。