微笑みと共に、世界は眠る
「どうかした?」
「いいえ、別に。それじゃあまたね、兵隊さん」
そう言って、少女は入り口に足を踏み入れる。
「どうせあなたも、私のことを忘れてるだろうけど」
呟かれたその言葉は青年に届くことなく、小さく消えた。
一人になった青年もまた、中央の入り口へと入って行く。
「元の髪は、一体何色だったんだろう」
風に靡く白銀の髪が、頭から離れなかった。
そんなことを知らない少女は、一人狭い通路を歩いて行く。右折すれば、星が煌く紺碧の空が広がった。
しかし空と行っても、人工的な空だ。
階段を数段下り、小さな家々に挟まれた小道を進んでいく。家といっても、正方形の箱型に一つ二つ窓があるだけである。
そんな中、扉にA31と書かれた家に彼女は入った。
棚に置いてある一冊の古びた本を手に取り、ベッドに腰掛ける。
「この本を初めて見た時、私は誇りを持っていたのにね」
格ページに載っている写真を見ながら、少女は呟いた。
強く唇を噛み締め、本に顔を埋(うず)める。
「どうして、歪んでしまったの?」
掠れた声で言う。けれど涙は出ていなかった。
本を持ち、彼女は立ち上がる。そして外へと出て、小さな広場へと向かった。
そこには他に何人かおり、親子連れもいる。
少女はベンチに腰掛け、そっと目を閉じた。