微笑みと共に、世界は眠る
「そうすれば誰も悲しむことはなかった! お互いを傷つけあうこともなかった!」
泣き叫ぶ声が、耳の中でこだまする。呆然と、少女を見つめた。
「………そう、ね」
ぽつりと彼女は言う。その声に、少女ははっと我に返る。
「あ、私……なんてひどいことを……。違う……今のは……私なんかじゃない……。違う、違う……私じゃない!」
少女は頭を抱え込む。
――ああ、彼女が壊れていく。
青年の脳裏に響く、悲しげな声。
守ってみせると、決めたのに。〝私〟が、この子を壊していく。
翡翠色の瞳は、虚ろに少女の姿を映した。
「――……」
彼女が何か言おうとした、その時。
「そこの二人、何してるんだ!」
機関銃を肩に掛け、腰の周囲に装着しているヒップホルダーに拳銃を一丁持っている兵士が一人、駆け寄って来る。
「此処は危険だ。早く地下に戻れ!」
その言葉に、少女はふらりと立ち上がる。黒髪が、風で靡いた。
刹那、どくん、と彼女の心臓が跳ねる。胸騒ぎが、青年を襲う。