微笑みと共に、世界は眠る
「私は……」
ぽつりと呟き、少女は兵士の胸元へ倒れ込む。そこからは、一瞬だった。
ヒップホルダーから拳銃を抜き取り、少女は力強くその男の胸元を押す。兵士はよろけただけだったが、咄嗟に拳銃を奪い返すことはできなかった。
「あっちにいる私は……本物は、大切な人たちと一緒にいて、幸せなのかもしれない」
言いながら、少女は一歩、また一歩と、後ろに下がっていく。
「だけど私は……みんな喪って、苦しくて……。もう、耐えられないよ……」
頬を伝い、零れ落ちる悲しみ。こめかみに銃口を当て、少女は痛々しく微笑む。安全装置を引く音が、やけに大きく聞こえた。
「だめ!」
咄嗟に体を前に出し、手を伸ばす。
「――ごめんね」
耳に響く、悪魔の嗤い声。頬に飛び散る、赤い花びら。見開けた目に、靡く黒髪は鮮明に映る。
「………」
立ち竦む彼女。一筋の涙は少女の血と混ざり、静かに流れ落ちた。
青年は唇を噛み締め、顔を背ける。そして眩い光に、彼は包まれた。