微笑みと共に、世界は眠る
( ねえ、私たち二人でさ )
少女と同じ白に黒襟のセーラー服に肩まである黒髪を持つ女の子が、脳裏に浮かぶ。
( いつか此処に行こう )
明るいその笑顔は、幾度の年月が経とうと色褪せることはない。
結局、あなたと一緒に行くことは出来なかったね。
戦争さえ起こらなければ、行けたかもしれないのに。
……戦争さえ、起こらなければ……あなたはきっと――。
「お姉ちゃん」
可愛らしいその声に、少女はハッとなる。彼女の前には、5歳ぐらいの男の子が立っていた。
「なあに?」
「それは何の本なの?」
手の中にある古びた本を指差して、男の子は首を傾げた。
「みんなが地上で住んでいた頃にあった綺麗な景色とか、その時大切に扱われていた場所の写真が載っている本よ」
ページをゆっくりと捲っていき、男の子に写真を見せる。
するとその子は目を見開き、感動を込めた瞳で少女を見つめる。
「これが本当のお空なの?外のお空はこんなに綺麗なの?」
気分が上がっているその姿に、少女は優しく微笑む。
「ええ、綺麗よ。夕陽はもっと綺麗なの」
「じゃあこの青いものはなあに?」
「海よ。海の中にはいろんな生き物がいるの。あなたよりももっと小さいものも入れば、あなたを簡単に丸呑みしてしまうくらい大きいものもいるわ」
そうなの?と男の子はびっくりする。
「外の世界ってすごいんだね! 僕もいつか海を見れるかな?」
その言葉に、少女の指が僅かに動く。
そして彼女は微笑む。悲しみを隠して微笑む。