微笑みと共に、世界は眠る
( 君は強いな )
全てのことを記憶し、存在し続ける。悲しみに負けてしまうことは許されず、ただ一人、世界を見つめ続ける。
あの少女に〝自分〟を否定された時、確かに彼女の中で、何かが崩れ落ちる音がした。
それはきっと、世界に対する希望と、自分の価値。
( 俺は、〝君〟を否定しないよ )
たとえ俺の信じ続けてきた望みが叶わなくても、この世界は、否定しない。
( 君が異常者(オレ)に目をつけるのなら、俺は嬉しい )
君のことを、知ることができるから。そして君は俺を、求めてくれるから。
少女は静かに、彼に身を任せた。
( )
それは小さい言葉だったけれど、確かに、青年には聞こえた。彼女の温もりを、彼は覚えている。
そっと目を開け、おもむろに起き上がる。
「安静にしておくように、か」
殺しの命令はいくらでも従える。でも今回の命令はきけない。
今の俺には、ゆっくりと一人休む時間すら、勿体無いから。
腰を上げ、掛けてある軍服を手に取り、そそくさとそれに着替える。
ヒップホルダーを腰の周囲に装着し、拳銃を入れると、彼は最後に手套をはめた。
――さあ、行こう。悲しみと苦しみが漂う地上へ。
俺に出会えて良かったと、言ってくれた彼女のもとへ。