微笑みと共に、世界は眠る
――あなたは勘違いをしている。私が自分を責めるのは、私がこの世界を創ったことではなくて、誇りを持ったこの世界を、私が歪ませてしまったから。
けれどそれは言えない。言わなければいけないとわかっているのに、言えない。
戦争によって父を喪い、弟までも喪った悲哀なる青年。争いさえ起こらなければ、彼の母親も持病を治すことができたはずなのに……。
家族を喪ったあなたは、誰よりも、何よりも、この殺し合いを憎んでいる。だからあなたはきっと……いや、必ず、私を憎むに違いない。
依然黙り込む彼女に、青年は困ったように微笑む。
「旧市街に行こう」
その言葉に、え? と少女は顔を上げる。
「花を見に行かないと」
そう言って、彼は手を差し伸べる。
「………」
彼女は気付く。今見に行っても、花はまだ咲いていないということに。勿論、青年もそれには気付いている。
「行かないのか?」
そして少女は、気付く。これは彼の優しさなのだと。
「行くわ」
笑みを浮かべ、彼女は手を取る。青年は優しく微笑んだ。