微笑みと共に、世界は眠る
空は茜色に染まっていき、悲しみと憎しみの叫び声は、消えていく。冷たい風は、二人の間を通り過ぎていく。
人気のない旧市街は、寂しさを感じさせた。
「………」
少女は隣にいる青年を一瞥する。その視線に気付き、彼は、ん? と首を傾げた。
「どした?」
「……あなたは」
そう言って、口を噤む。苦しげな顔をし、彼女は唇を噛み締めた。
「………何でもない」
「――……そっか」
君がそう言うのなら、いつか君が言おうとするまで、俺は何も言わないから。
少女は知らない。青年が切なそうに微笑んだことを。
誰が見ても、今の彼女は不安が滲み出ている姿だとわかるだろう。けれど彼は、自分からその不安について訊くことができなかった。
「………」
俺は君の過去を一部しか知らない。
だから俺はわからない。君の心を押し潰す、その不安の重さを。
俺が唯一わかるのは、君がその不安を口にしたくないと――俺に話したくないということ。
二人は角を右に曲がり、しばらく歩き続ける。
あと少しで花壇が見えてくる、というところで、少女は立ち止まった。彼は静かに、彼女を見守る。