微笑みと共に、世界は眠る
「……かつて私がこの世界の中身を創った時、ある一人の研究者が私に言ったの。〝自分の世界を見つめ、そしてその素晴らしさを知りなさい〟と。〝自分の存在に、自分の世界に、誇りを持ちなさい〟と」
だから、と彼女は続ける。
「私はこの世界にある国々を巡りまわった。そして、その人の言った通り、私は〝私〟に、この世界に誇りを持ち、自尊心をも持ったの」
青年は何も口を挟まず、少女の言葉を聞き続ける。
「だから私は、この世界を、自然を、守りたかった」
次々と散り落ちてゆく、桃色の花びら。朽ちてゆく悲しみが、彼女の中に痛いほど伝わってきたのを覚えている。
「どんな手を使ってでも、千年桜を助けたかった」
一呼吸置き、少女は手を前に出す。
「――〝私〟は人の形をしているだけで、元々はエネルギーの固まり」
手のひらの上に、ほのかな光が集まる。
「だから私は、〝私〟の中にある一定の力を結晶化することができるの」
光が消えると、そこには深い緋色に色づいた結晶が浮いている。