特別なのはあなただけ。
少女はノートパソコンの電源を切り立ち上がった。
春休み、やることがないのでお気に入りのチャットルームで暇潰しをしようと思ったのだが30分くらいしかつぶせなかった。
「あー暇だなー・・・・・・いつもは50分は余裕なのに・・・・・・やっぱり一週間に5回ぐらいがいいのかな、うん毎日はやめよう」
少女はベッドに座りながら窓を見る。
少女の部屋は2階にあるので近所の様子がわかりやすい。
窓からは近所の小学生がワイワイ騒ぎながら遊んでいるのが見えた。
「・・・・・・今日はそんなに寒くないんだよなーっと」
とりあえず外を散歩することに決めた少女は腰まである髪を結び直して、机の上にある雑な扱いの帽子に手を伸ばし、被らず手に持ったまま部屋を出る。
階段を下りリビングを見ると机の上に書き置きと千円札を見つけた。
雑な字で『今日は遅くなるから』と書いてある。
「・・・・・・今日『は』じゃなくて今日『も』だろ馬鹿」
誰にも聞こえないような小さな声で少女は言った。その顔には怒りが見え隠れしている。
千円札を雑にポケットにしまい少女は家を出た。
家を出た途端少女は後悔した。目の前に自分より30㎝は高い男子が人懐っこい笑顔を見せながら立っていた。
少女の部屋から見えない場所に立っていたので少女が気づかなかったのも無理はない。
「・・・・・・・・・邪魔」
「こんにちはー、冬香(ふゆか)さん。相変わらず俺には毒しか吐かないんですか、まぁそれがいいんですけどね!あ、今の顔写真撮っていいですか?待受にしたいんで。いやー冬香さんはジャージ姿でも素晴らしい!」
「・・・・・・ダメ、帰って」
「冬香さんがそう言うなら!また明日!家の前で待ってますよ!」
男は何の抵抗もしないで帰っていった。見えなくなるまで手を振っていたが。
少女はいなくなったのを見計らって大きな溜息をついた。
羽生敦志(はにゅうあつし)。
それが今、少女があまり外出できない原因だ。
外に出れば今みたいな会話の繰り返し、中にいたら電話地獄。
しかも敦志は見た目が良いため嫌でも目立つ。街に出かけたときモデルにスカウトされたらしい。そんな噂も耳にしたことがある。
正直、ものすごく鬱陶しい。