お見合い相手は変態でした
「何言ってるの?あのロベルト様よ?イケメンって噂の方よ?そうそう会える機会なんてないんだし、会ってみたいじゃない。(もしかしたら私にも声をかけてもらえるかもしれないし。)」

「そうよ。夜会にいけない私たちが、そんな方に会える機会なんて、こんな時しかないんだからね!(もしかしたら私にも声をかけてもらえるかもしれないし。)」



ターナとミモザの顔には、心の声が文字で書かれているように見え見えだった。
その時、エルザには2人の背後の厨房につながる扉がゆっくりと開くのが見えた。
扉を開けた主は、立てた人差し指を唇に当て、にっこりとほほ笑みながら近づいてくる。
その背中には黒く禍々しいオーラが見え、背中が粟立つのを感じた。後ろに下がりたいが、2人に両手を掴まれているので逃げることもできない。



「聞いてるの?エルザ。」

「そうよ、ちゃんと聞いてるの?エルザ。」



怖くて目が合わせられず、視線を空中に泳がせていると、2人は話に集中していないと感じ取ったらしく、更にエルザに迫ってくる。
その2人の肩を、黒いオーラをまとった主がそっと叩いた。



「紅茶を運べと言ったのに、聞かなかったのはどこの誰かしら?」



その声に、2人の背筋が急にシャキッと伸びたかと思えば、顔に怯えの表情が浮かぶ。
黒いオーラをまとった侍女頭のロアの声は、声色こそ優しげだが、控えの間にブリザードが吹き荒れたような冷たさがあり、エルザの背筋まで凍りそうになる。



「エルザ、新しい紅茶を用意してもらうからすぐに持って行ってもらえるかしら?」



テーブルの上の、紅茶で濡れたトレーとソーサーに目をやったロアは、そのままの声色でエルザに告げる。何も言えず、ただ口端を歪めて頷くと、ロアは優しく微笑んだ。
まるで雪の女王に見つめられたかの如き微笑みに、身も心も凍りそうだった。
新しい紅茶が用意され、それを持ってエルザが控えの間から出ていくと、控えの間から怒声があがったのは言うまでもない。
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