レベッカ
「犬は、生かしておいても使えないですもんね」
「そうだな、よくわかってるじゃないか」
下手な鎌をかけてしまったかと思ったが、意外なことにマルクは、笑っていた。
ここ最近のアレンがマルクに協力的なのが嬉しいのか、やけに機嫌が良い。
『にんまり』という表現がぴったりな笑顔だ。
「それにな、あの野犬たちは、どうせもともと処分が決まっていた犬たちだよ」
「処分?」
「君の隊に駆逐される役目だ。この騒動は私の計画の一端だからな」
けいかく、と鸚鵡返しにアレンが呟いた瞬間、「アレン君」マルクの顔がふと近付いた。
思わず仰け反りかけたが、ここで彼の気分を害しては、得られる情報も得られなくなるかもしれない。
マルクは、以前よりも明らかにアレンに対する警戒心を弛めていた。
何を言われても余計なことを言わず、真意のわからない指示をただ守り続けてきた甲斐が、ようやく表れはじめたのだ。
「エドの地位に就きたいとは、思わないか」
「……え?」
しかし、唐突に出てきた名前に、アレンは思わず目を泳がせた。
表向きには、アレンが裏切ったと言われている相手だ。
エドの耳にも、それは間違いなく入っているはずだった。