レベッカ
「一等室、客入ってる」
「マジ? 珍しい」
「今部屋の中にいる」
この宿で一番上等な部屋の扉を伺いながら、二人は物陰へ隠れる。
しばらくして、部屋からは、一人の男が出てきた。
服装や装飾品から見ても、どこか他の土地から来た旅行者であることは間違いない。
彫りの浅い横顔のラインが、のっぺらぼうのような印象を与える男だった。
耳をそばだてるが、男の出て行った部屋からは、何一つ物音は聞こえなくなった。
どうやら、連れはいないようだ。
二人は一度顔を見合わせると、その扉へと駆け寄った。
ロイが、針金を鍵穴に突っ込んで、かちゃかちゃと動かす。
アレンにはその理屈は全くわからないが、彼がそれをやると鍵が開く、ということだけは理解している。
アレンは、見張り役として五感を張り詰めた。
しかしそうしながらも、頭では別のことを考えていた。