レベッカ
(さっきの男……一等室に泊まれるほどの金持ちにも見えなかったんだけどな……)
ふとアレンは、足元に、紙切れが落ちていることに気付く。
さっきの男が落としたものだろうか。
そう思って拾い上げると、紙は少し汚れていて、なにか簡単な地図のようなものが書かれていた。
このままここに捨てておこうかと考えたが、なんとなく、手は勝手にポケットに伸びる。
もう、癖のようなものだ。
すると背後から、かちゃん、と歯切れの良い音が聞こえた。
ロイが鍵を開けたのだ。
アレンがロイに背中を向けて見張りをしていたのは、ほんの二分程度のことである。
二人は、扉の内側に素早く体を滑り込ませると、鍵をかけ直して、暗闇の中で物色をはじめる。
すでにそれなりに滞在しているようで、細々とした荷物などは、クローゼットや引き出しに仕舞われていた。
時計はベッドサイドに置いてあるが、財布はない。
上着はないが、帽子は置きっぱなしだ。
もしかしたら、食事を摂りに、近所のレストランへ行っただけなのかもしれない。
だとしたら、三十分もあれば戻って来てしまうだろう。
以前そんな失敗をして、こっぴどく用心棒に殴られたことがあった。