レベッカ
怯えた金切り声を上げる中年の女性を、木箱の積まれた山に叩き付ける。
悲鳴に余計に苛立って、乱暴に胸ぐらを掴み上げて目の前にナイフを突き付けた。
途端に大人しくなったことに、満足する。
そうだ、ちょっと見慣れない大きさのナイフさえあれば、人間は簡単に自分に服従するのだ――そんな思いを抱いて。
予想通り、背後からは、砂を踏む音がいくつも聞こえる。
男は、ようやく体ごと振り返った。
腕っぷしには自信がある。
こんな窮地を、今まで何度も潜り抜けてきた。
力ずくで欲求を満たしたことも、一度や二度ではない。
最近他所から流れて来た男だったが、相手の予想はついていた。
噂で聞いた、この街の治安維持組織だ。
だが、だからこそ、一般市民を人質に取ることが絶大な効果を示すはずだと考えたのだ。
男のその考えは、振り向いて相手を見た瞬間、確信に変わった。
(ツイてる!)
笑い出しそうになるのを堪えて、人質の首筋にナイフを押し付ける。
そして、どすを効かせた声で、言う。
「道を開けろ。……お前だよ、そこの女ァ」
袋小路の入り口に立っていたのは、想像よりも少ない、五つの人影――そしてその先頭に立っていたのは、若い女だった。