レベッカ
「いてっ。アレン、そこ触んな」
「やっぱ怪我してんじゃん」
「俺はいーんだよ。……俺はいーの」
「ロイ、」
「勝手に怪我なんかしてんじゃねーよ……」
バカアレン、と、耳許から声がする。
耳に鼻が当たった。
縋るようにして、腕に力が込められる。
アレンは、ロイが痛めた背中に触れないようにしながら、上を見上げた。
星は、見えない。
肩も少し痛かった。
悲鳴やら叫び声やら、遠くが騒がしい。
(あ、そっか、水槽か)
自分で起こした騒ぎを思い出していると、ロイが、「アレン」と呼んだ。
「コレなに」
腕から解放されると、ロイが紙切れを揺らしていた。
手に取ると、いつの間に抜き取ったのか、さっき一等室の扉の前でアレンが拾って、ポケットへ入れておいた紙切れだった。
「あ。やべ、それ戻してくんの忘れてた」
「え。どこにあった?」
「ドアの前に落ちてた」
「落ちてたか……それならまぁ、わざわざ返しに行くこともないかな」
さっきまでの、どこか狂ったような雰囲気は綺麗に消えて、ロイが真面目な顔で紙切れを覗き込む。
大雑把に道を書いただけの、雑な地図。
よくよく見ると、案外広い範囲のようだ。
雑ではあるが下手ではなく、それを見ていると、街の様子を思い出すことができた。