レベッカ



異様な追い詰め方と不穏すぎる動きに一時は焦ったが、どうやら運は自分にあるらしい、と、男は思った。
治安維持組織だか私設警察部隊だかなんだかは知らないが、こんなか細い女に、なにができるというのだ。
こうして向かい合ってしまえば不意討ちも難しい、捕まって人質に取られて仲間の足を引っ張ることになるのがオチだろう。


「このババア殺されたくねぇんだろ、お前ら政府に雇われてんだもんなァ。黙って道開けとけよ……なんだったらそこの姉ちゃん、このババアの代わりに人質になるか?」


へらへらと笑って欲望を隠そうともしない男に、女の隣にいた一人がぽそりと言葉を返す。


「それはやめとけよ、扱いに困るよ」
「ほう……じゃじゃ馬は嫌いじゃねぇぜ」
「じゃじゃ馬?」


ふと聞き返したそれが合図だったかのように、女が、す、と腕を上げた。
何事かと、一瞬様子を伺ってしまう。

地面と平行に前に伸ばされた、細くしなやかな腕。
その肘が軽く曲げられているのを見て、男は寒気を感じた。
まさか、と脳が考える前に、人質の肩を掴む手が動く。





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