レベッカ
きっとロイが生まれて初めて言われたその一言を残して、旅人は姿を消した。
正確には、素早く、信じられないような脚力で、背後の窓まで飛び退いたのだ。
一瞬判断が遅れたロイが、ライフルの照準を合わせ直す前に、旅人は窓を開ける。
そして窓枠に足をかけて、左手を翳した。
ロイは、目を見開く。
「か……火炎放射器……?」
「違う。俺はね、炎(バーニー)」
まるで皮膚が発火したように、手のひらから炎が上がる。
それを壁に押し付けると、旅人は、ひらりと窓から飛び出した。
「ロイ! アレン!」
外から、エドの声が聞こえる。
火が出たことに気付いたのだろう。
ロイは、アレンを見てから、レベッカに目を移した。
相変わらず微動だにせずに、二人の方を見ている。
彼女の長い髪のすぐそばまで、もう火は燃え移っていた。
きっとじきに、建物ごと燃え崩れてしまう。
拳を握る。
そして、アレンの体を担ぎ上げた。