君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「悪かったな、昨日。あれだろ……おれがあんなデリカシーない事、言ったからだろ」


だって、仕方ないじゃないか。


鞠子に好きなやつが居た事も、そいつに失恋していた事も分かんなかったんだから。


分かってたら言わなかった。


「恋愛してる暇ねえとか。んな事に時間割いてる暇なんかねえとか」


あれじゃあ、恋愛そのものを端から全否定してるようなものだ。


失恋した鞠子には酷い事を言ってしまったと思う。


でも、ここまであからさまな態度をとられるおれの身にもなって欲しい。


これから3年間、一緒に甲子園を目指すっていうのに、しょっぱなからこんなんじゃなあ。


「修司って、平和な男だね」


ふふ、と鞠子が嫌味ったらしく笑うものだから、いらっとした。


女って、面倒くせえなあ。


花湖も、鞠子も、面倒くせえ。


「失恋が何だよ。そこまで髪の毛バッサリ切んなくてもいいだろ。大袈裟だな」


「……は?」


「女って意味分かんねえよな。そこまでする必要あんの?」


おれにはわっかんねえなあーなんて笑いながら、そんな自分を最悪だと思った。


なんでケンカ口調になっているのか、理解に悩んだ。


「かっちーん」


黙って聞いてりゃいい気になりやがって! 、と振り向いた鞠子にぎょっとしてしまった。


闘牛のようにふんふん鼻を鳴らして、アーモンド型の目をぎりっと吊り上げて、


「何も知らないくせに何様? えらそうに!」


ずんずんおれに詰め寄って来るではないか。


「なんだよ、やんのか」


ビッ、と拳を握って格闘家のようにポーズをとったおれに、小さな顔をずいっと寄せて、


「やってやろうじゃん」


ふん、とあごを突き上げた鞠子の迫力は満天豆もやしだ。


「覚悟! 修司」


「いや、あの……顔! 顔が近いから」


ツン、と上を向くかつげが目に刺さって来そうなほど近い。


涼やかなブラウン色の瞳が、おれを硬直させる。
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