君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「修司と一緒に居たいから」


……え。


「彼女になれないなら、それでもいい。でも、せめて、マネジャーとしてどもいいから。一緒に居たい」


「……何……言ってんだよ」


猛烈に脈が速くなった。


鞠子の小さな体が小刻みに震え始める。


「だってそうでしょ」


と鞠子はうつむきながら声を震わせた。


「わたしの好きな人。野球しか見てないんだもん。野球に夢中で……こっち見てくれないんだもん」


まさか。


「彼女になれないのは分かった。でも、せめて、一緒に同じ夢、追いかける事くらい……いいでしょ」


まさか。


鞠子の好きなやつって、まさか。


「おい。ちょっと、ちょっと待て」


ぐん、と身を後ろへ引いた時の衝撃で、ぶつかったテーブルの脚が軋んだ。


と、同時に弾かれたように顔を上げた鞠子は、真っ赤になっていた。


「わたしの好きな人、修司だよ」


テーブルをごろごろ転がって、ボールが落ちて来た。


テーン。


テン、テン、テン、テン。


「……あ、ええと」


意外にも冷静な自分に驚いた。


先に目を反らしたのは、おれだった。


真っ直ぐ見つめてくる鞠子の目を、これ以上見つめ返すなんてできなかった。


「あのさ、鞠子」


「あ、いいの!」


いいの、いいの、と鞠子がおれの手をそっと離して跳び上がるように立ち上がった。


「返事が欲しいわけじゃないから」


今の忘れて、修司の記憶から抹消して、そう言った鞠子は鞄を抱きしめて、部室を飛び出して行った。


「ああ……ああああ」


声なのか、溜息なのか判別できないものを吐き出して、床に背中から一気に倒れ込む。


蛍光灯の光が眩しくて右手を上に伸ばして遮ろうとしたけれど、指の隙間からこぼれて、こぼれて。


やっぱり目を細める。


あの日も眩しくて、こうして目を細めたっけな。







< 102 / 193 >

この作品をシェア

pagetop