君に届くまで~夏空にかけた、夢~
――あの! あの、すみません! 先輩!
鞠子と初めて会話したのは、まさにこの部室だった。
振り向くとひょろひょろで小さい女が背後に立っていた。
――安西鞠子です! 1年です! よろしくお願いします!
今日からマネージャーになりました、と緊張しているのか、意気込んでいるのか、顔を強張らせていた。
――あ。おれも1年なんで。先輩じゃないっす
――えっ、やだっ。嘘でしょ?
と鞠子は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、
――詐欺! 年齢詐欺!
とおれを指さした。
その日、その時、部室に居たのはおれと鞠子だけで、他には誰も居なかった。
おれは先輩に頼まれたスコアを探していて、そんなおれを鞠子が先輩だと勘違いしてしまったらしかった。
――詐欺って……おれ、そんなに老けてるんすか?
――だって、すごい大きいから先輩かと思った!
恥ずかしい、とうつむいた鞠子に、おれは手を差し出した。
――これから3年間、よろしく。おれ、平野修司って言います
――平野くん
――あ、修司でいいよ。同じ1年なんだしさ
すると、鞠子は大粒の目をぱっくり見開いて、手を握り返して来た。
――すっごい!
そして、ちょっと来て! 、と小さな体でおれをぐいぐい部室の外へ連れ出した。
――ねえ、修司。この手、空にかざしてみて
――え……こう?
言われたように右手を春の空にかざすと、鞠子は両足でぽんぽん飛び跳ねて、きゃっきゃっと楽しそうにはしゃいだ。
――あの空に、届きそう!
――……何言ってんの。無理に決まってんじゃん
――あの空、掴んでみてよ
――どうやって?
――ぐーぱーぐーぱーしてみて
――……はあ
おれは小首を傾げて苦笑いしながら、掴む事なんてできない青空を掴む仕草を繰り返した。
ぐーにすると拳が太陽と重なって、ぱーにすると指の隙間からお日様が木漏れ日のように降り注いだ。
――すごいね!
――え?
――修司の大きな手なら、あの青空も簡単に掴めちゃうね!
鞠子と初めて会話したのは、まさにこの部室だった。
振り向くとひょろひょろで小さい女が背後に立っていた。
――安西鞠子です! 1年です! よろしくお願いします!
今日からマネージャーになりました、と緊張しているのか、意気込んでいるのか、顔を強張らせていた。
――あ。おれも1年なんで。先輩じゃないっす
――えっ、やだっ。嘘でしょ?
と鞠子は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、
――詐欺! 年齢詐欺!
とおれを指さした。
その日、その時、部室に居たのはおれと鞠子だけで、他には誰も居なかった。
おれは先輩に頼まれたスコアを探していて、そんなおれを鞠子が先輩だと勘違いしてしまったらしかった。
――詐欺って……おれ、そんなに老けてるんすか?
――だって、すごい大きいから先輩かと思った!
恥ずかしい、とうつむいた鞠子に、おれは手を差し出した。
――これから3年間、よろしく。おれ、平野修司って言います
――平野くん
――あ、修司でいいよ。同じ1年なんだしさ
すると、鞠子は大粒の目をぱっくり見開いて、手を握り返して来た。
――すっごい!
そして、ちょっと来て! 、と小さな体でおれをぐいぐい部室の外へ連れ出した。
――ねえ、修司。この手、空にかざしてみて
――え……こう?
言われたように右手を春の空にかざすと、鞠子は両足でぽんぽん飛び跳ねて、きゃっきゃっと楽しそうにはしゃいだ。
――あの空に、届きそう!
――……何言ってんの。無理に決まってんじゃん
――あの空、掴んでみてよ
――どうやって?
――ぐーぱーぐーぱーしてみて
――……はあ
おれは小首を傾げて苦笑いしながら、掴む事なんてできない青空を掴む仕草を繰り返した。
ぐーにすると拳が太陽と重なって、ぱーにすると指の隙間からお日様が木漏れ日のように降り注いだ。
――すごいね!
――え?
――修司の大きな手なら、あの青空も簡単に掴めちゃうね!