君に届くまで~夏空にかけた、夢~
鞠子は初めて会った日も長い髪の毛をふたつに結っていて、それが触角みたいにぴょんぴょこはずんでいて。


青く澄んだ春の空にかざした指の隙間からこぼれる光を浴びながら、鞠子は眩しい眩しいと笑った。


――光のシャワーみたい!


清白に笑う女だと思った。


不純物を一切含まない、清く、風光明媚に笑う女だ、と。


――修司なら、あの空も掴めそうだね!


あの日も眩しくて、目を細めた。


同じ空を見上げたあの時もこうして手を伸ばして、目を細めた。


彼女があまりにも純粋に笑うから、眩しくて。


目を、細めた。


満開の桜が春のやわらかな風に吹かれて、まるで雪のように乱舞していた。


青空日和だった。










「ちーす」


その声にはっとして飛び起きると、


「よ」



部室の入り口に菊地先輩が立っていた。


「おいおい、こんな汗臭いとこで寝てんじゃねえよ」


菊地先輩もまた、練習着のままだった。


「自主練してたんすか?」


「……いや。ちょっとな。監督と話してた」


「監督と?」


すたっ、と立ち上がったおれに、


「ほい、差し入れ」


と菊地先輩がぽーんと投げて来た。


「うわっ」


それを両手でキャッチすると、


「ナイキャッチ」


と菊地先輩が笑ったので、少しほっとした。


いつもの、優しくてかっこいい、おれの知っている先輩だ。


「それ、おれのおごり」


「ありがとうございます」


キンキンに冷えたスポーツドリンクだった



「平野と話したくて。お前らの部屋に行ったんだけど」


「……え?」


「春倉ビエラが、お前がまだグラウンドに居るって教えてくれたんだ」


「話、ですか」


それは何かと聞くと、菊地先輩は混濁した笑顔で肩をすくめた。

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