君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「うん。まあ、ちょっと歩こうぜ。クールダウンがてら」


と菊地先輩は言い、親指を立てて外をくいくいと指した。


「歩きながら話そう」


「……おす」


部室の明りを消して、おれと先輩は並んで歩き出した。


今夜はやけに、月明りが煌々と降り注いでいる。


グラウンドの横を歩いて寮も前も通過して、校舎の前にさしかかった時だ。


「まあ、立ち話もあれだよなあ。座るか、そこ」


と菊地先輩が言うので、中庭のベンチに座る事にした。


ベンチに座って、スポーツドリンクをごくっと流し込む。


からっからに干からびる寸前だった喉に、キンキンに冷えた水分がすうっと染み込んで行く。


隣でスポーツドリンクを飲む菊地先輩の喉仏が上下していた。


何をやってもかっこいい男の人だと思う。


鼻はつんと高く、その横顔は完璧過ぎるほどに整っているし。


耳の形だってきれいだ。


菊地先輩の横顔をじろじろ見ながら、思った。


この人なら、どうしていたのだろう。


さっきのような状況を、どう対処していたのだろうか。


「なんだよ。あんまじろじろ見んな。男にんな見つめられてもなあ」


かかか、と笑った菊地先輩から、仄かにスポーツドリンクの甘い香りが漂ってくる。


「すいません」


短い沈黙を破ったのは、菊地先輩だった。


「平野さ」


「はい」


「おれの彼女、知ってる? あー、と。バスケ部の」


「あ、はい。確か、おれとタメですよね」


「うん、そう。千夏(ちなつ)」


「千夏さんていうんですか」


寮の食堂で時々一緒になる事がある。


彼女は目立つ方だから、知っている。


バスケ部というだけあって背が高くて、色白で。


男みたいなベリーショートヘアーで、大きな目が印象的なはっきりとした日本人離れした顔立ちだ。


「美人っすよね」


ふたりはどちらも長身で、美男美女で。


だけど、こそこそしたりしないし堂々としているから、寮生はみんなが知っている話題のカップルだった。
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