君に届くまで~夏空にかけた、夢~
大事な話だ。


これは、今日まで生きて来た中で、一番大事な話だ。


「……何だ、そったおっかねえ顔して」


目をきょとんとさせて、じいちゃんが言った。


「大事な話だ。じいちゃん」


じいちゃんは、国会中継とのど自慢と、甲子園を観るのが好きだ。


他の番組は、ほとんど見ない。


見るとすれば、夕方のニュースくらいだ。


「大事な話が。何だ。言ってみれ」


本当は国会中継を観たいのだと思う。


でも、何か空気を感じたのか、じいちゃんはパチリとテレビを消して、おれの目を真っ直ぐ見つめ返してきた。


ばあちゃんもきぬさやをほっぽり出して、じいちゃんの隣に座った。


「花湖。ちょっとごめん」


花湖の手をほどいて、おれは畳に両手をついた。


「じいちゃん、ばあちゃん。おれ……おれな」


額から、大粒の汗がぼつっと畳に落ちた。


「南高には行かない。受験、しない」


古いいぐさの匂いが鼻を突き抜ける。


むずむずした。


「したって……せば、どごの高校受験する気だなよ」


ばあちゃんの声は、しわしわだった。


どく、どく、どく。


心臓の音って、こんなにでっかいもんだったのか。


おれはごくりと唾を飲んだ。


「桜花。桜花大附属に……行かせて下さい」


そう言って、おれは畳に額をべったりつけた。


しん、と静まり返った今に、蝉しぐれが流れ込んでくる。


「今日、声がかかったんだ。こんな、県大会にも出てないおれに。声が……かかったんだ」


県内で一番、甲子園に近いと謳われる、伝統校から。
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