君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「今回の件は、おれと鞠子の問題っすから」


うん、と拳を握りしめる。


「今から、おれの気持ち、伝えて来るっす!」


そうだ。


それしかねえ。


このままじゃあ、きっと……いや、確実に、おれたちは気まずくなってしまう気がする。


そもそも。


うん。


そうだ、あれだ。


真正面から正直な気持ちをぶつけて来てくれた鞠子に、失礼だ。


「先輩!」


「はい」


「おれ、今から、鞠子んとこ行って来ます!」


だったら、今のおれの正直な思いを伝えて、お互いにすっきりした方がいいに決まってる。


電話とかメールじゃ駄目だ。


直接、顔を見て、伝えないと。


「いやいや、電話とかメールとかあるだろ? 何もわざわざ」


と菊地先輩が立ち上がる。


「駄目っすよ! 鞠子は真正面からぶつけてきたんで。フェアにいかないと、おれは気が済まないです」


そんなおれを、菊地先輩は呆れ顔で笑った。


「平野のそういうとこ、尊敬するよ。まじで。ほんと、陰日向ないっていうか、何て言うか」


「行って来ます!」


だーっと駆け出して、ハッとした。


急ブレーキを掛けて、びったりと立ち止まる。


振り向くと、菊地先輩が唖然としていた。


「どうした?」


「あの、先輩」


おれはてくてくと先輩の所に戻り、帽子を取った。


「家が……分かんないっす」


「……あ?」


「あの……鞠子の家、どこなのか分かんないっす」


「……は」


はーはははは、と体を反らして大笑いした菊地先輩の口の奥で、のどちんこが揺れる。


「いいね、いいね」


ひいひい、引き笑いしながら菊地先輩がおれの腕をばっしばし豪快に叩いた。


「いいね、お前のそういう真っ直ぐなとこ! やー、いいね! 協力してやりたくなっちゃうね、先輩としては」


おれは、なんて無鉄砲などあほうなんだ。


「……ははは」


急に恥ずかしくなって、おれは帽子をぶっきらぼうにがぶっと被った。


帽子のてっぺんを、菊地先輩の大きな手が弾く。


「平野のそういう真っ直ぐなとこ、好きなんだろうな。鞠ちゃん」
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