君に届くまで~夏空にかけた、夢~
男女交際が禁止されているわけでは決してないのだが、男子禁制の領域に居るのがばれでもしたらどうなるのか。


呼び出し確定だ。


「せ、先輩……」


「大丈夫だって、平野はびびりなんだな」


「いや、そういう問題じゃ……」


「いいから黙ってろって……あ、おれ! 悪いんだけど、今ちょっと外に出て来れる?」


と会話している先輩の背中に身を隠しながら、おれは不審者のようにあっちをキョロキョロこっちをキョロキョロして、誰かに見られているんじゃないかと内心パニックの状態に陥った。


菊地先輩が話し終えて間もなく、女子寮の玄関前にすらりとした人影が現れて、


「ちょっ」


それは、菊地先輩の彼女の播磨千夏(はりま ちなつ)だった。


「ちょっと! 大輔……ばかっ」


小声で怒鳴った彼女はキティのサンダルをパタつかせながら玄関を飛び出してきて、


「向こうで待っててよ! 見つかったら停学じゃん、ばかっ」


あんたも! 、とおれと菊地先輩の手首をがしっと掴んで、体育館の裏へ引きずって行く。


彼女は風呂上りなのかベリーショートの髪の毛はまだ濡れていて、シャンプーの香りがした。


体育館裏に到着するや否や、


「お前たちはばかか! 見つかったら停学確実だよ!」


何考えてんの! 、と彼女は切れ長の目をツンと吊り上げて、おれたちの帽子のつばをべしっべしっと順番に叩いた。


「すいませんでしたっ」


帽子をとって頭を下げると、彼女はおれの顔を指さして「あっ」と笑顔になった。


「1年、センターの平野修司だ!」


「あ、はい。どうも、あの、初めまして!」


「初めましてってもんでもないでしょ。食堂で一緒になる時あるじゃん。うちらタメだし、千夏でいいよ。あたしも修司って呼ぶね」


ねっ、と笑った彼女の第一印象こそ怖いものだったものの、実際に話してみると気さくでさばさばしていて、何より、やっぱり美人だった。


「で、どうしたの。ふたり揃って」


体育館とアスファルトの段差にしゃがみながら、千夏が聞いて来た。


「急で悪いんだけど、千夏さ、うちのマネの安西鞠子の家、どこらへんか分かる?」


と、菊地先輩もそこにしゃがみ込んだ。


「え……安西鞠子って。何で?」


千夏の笑顔が一気に陰り、明らかに変化した。

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