君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「あの、すみません」
「おたずねしたいのですが」
同時に帽子を取り、おれと菊地先輩は会釈をした。
「はい、どうぞ」
ゆったりとした、老人らしい口調だ。
「どうされましたかな」
「この辺りに、安西さんという御宅はありませんか。探しているんです」
菊地先輩が尋ねると、おじいさんはパタリパタリと団扇で顔を扇ぎながら、
「ああ、そこがそうですよ」
逆の手でおれたちを指さした。
「そこが安西さんのお宅ですよ。あなたがたの後ろ」
「「え」」
と声を重ねて、振り向く。
表札を見ると、確かに【安西】とあるのだが。
「……おい、平野」
と、菊地先輩に肘で脇腹を小突かれて、おれは頷いた。
「はい……」
同時に顔を見つめ合って、苦笑いした。
「すげ。鞠ちゃんて、まじでお嬢だったんだな」
「話には聞いてましたけどね……本当だったんですね」
ぐるりと、辺りを見渡してみる。
確かに、どこも立派なたたずまいの家ばかりなのだが。
豪邸、なんて例えたら大袈裟だろうか。
この辺りでも特にでかい家だった。
でも、何かが明らかにおかしいのだ。
「あの! すいません!」
おれは、おじいさんに駆け寄った。
「この家、人住んでますよね?」
そして、安西家を指さす。
おじいさんは優雅に微笑みながら頷いた。
「はい。住んでいますよ。お若い女性が、ひとり」
「……え?」
ぱたぱた、団扇の音が妙に大きく聞こえた。
「あの……ひとりって」
どういう事なのか尋ねようとしたおれの手を、菊地先輩が引っ張って、
「すいません。ありがとうございました」
とおじいさんに会釈をした。
おじいさんは頷き、
「はい。どういたしまして」
とにこにこしながら、夜空を見上げた。
「ああ、明日も良いお天気になりそうですなあー」
薄い白髪が、団扇の風でぱやぱやと深海の海藻のように揺れている。
夜空は夏の星座がひしめき合っていて、星が今にもばらばらと降って来そうだ。
「行くぞ」
と菊地先輩がおれのアンダーシャツを引っ張る。
「おたずねしたいのですが」
同時に帽子を取り、おれと菊地先輩は会釈をした。
「はい、どうぞ」
ゆったりとした、老人らしい口調だ。
「どうされましたかな」
「この辺りに、安西さんという御宅はありませんか。探しているんです」
菊地先輩が尋ねると、おじいさんはパタリパタリと団扇で顔を扇ぎながら、
「ああ、そこがそうですよ」
逆の手でおれたちを指さした。
「そこが安西さんのお宅ですよ。あなたがたの後ろ」
「「え」」
と声を重ねて、振り向く。
表札を見ると、確かに【安西】とあるのだが。
「……おい、平野」
と、菊地先輩に肘で脇腹を小突かれて、おれは頷いた。
「はい……」
同時に顔を見つめ合って、苦笑いした。
「すげ。鞠ちゃんて、まじでお嬢だったんだな」
「話には聞いてましたけどね……本当だったんですね」
ぐるりと、辺りを見渡してみる。
確かに、どこも立派なたたずまいの家ばかりなのだが。
豪邸、なんて例えたら大袈裟だろうか。
この辺りでも特にでかい家だった。
でも、何かが明らかにおかしいのだ。
「あの! すいません!」
おれは、おじいさんに駆け寄った。
「この家、人住んでますよね?」
そして、安西家を指さす。
おじいさんは優雅に微笑みながら頷いた。
「はい。住んでいますよ。お若い女性が、ひとり」
「……え?」
ぱたぱた、団扇の音が妙に大きく聞こえた。
「あの……ひとりって」
どういう事なのか尋ねようとしたおれの手を、菊地先輩が引っ張って、
「すいません。ありがとうございました」
とおじいさんに会釈をした。
おじいさんは頷き、
「はい。どういたしまして」
とにこにこしながら、夜空を見上げた。
「ああ、明日も良いお天気になりそうですなあー」
薄い白髪が、団扇の風でぱやぱやと深海の海藻のように揺れている。
夜空は夏の星座がひしめき合っていて、星が今にもばらばらと降って来そうだ。
「行くぞ」
と菊地先輩がおれのアンダーシャツを引っ張る。