君に届くまで~夏空にかけた、夢~
新聞も山積みになって、崩れたり切れたりしている。
「菊地先輩……ここ、鞠子の家じゃないんじゃないですかね」
どうしても、こんなところにあの鞠子が住んでいるなんて、おれには想像もつかなかった。
「いや、たぶん、鞠ちゃんちだ」
と菊地先輩が2階を指さした。
見上げてみると、2階の一室にだけこんもりとした弱い弱い明りが灯っていて。
「……あ」
そのベランダには、見覚えのあるTシャツがぶら下がっている。
緩い夜風にはたはたと音をたてて、Tシャツが揺れていた。
練習中、鞠子が着ている【桜花大附】の文字がバックプリントされているTシャツだった。
鞠子の家だ。
認めたくはなくとも、必然的に、認めざるを得なかった。
「先輩……」
「うん」
「鞠子の親って、何やってる人なんですかね」
「何で」
「だって、この家、荒れ放題じゃないですか」
「うん」
「うん、て……だって、さっきのおじいさんも変なこと言ってたじゃないですか。若い女性がひとり、って。おかしくないで――」
「平野」
菊地先輩に呼ばれて、反射的に言葉を飲み込んだ。
「詳しい事は、後で説明するから」
「……どういう意味ですか」
「とにかく、後でちゃんと説明するから」
それだけ言って、菊地先輩はインターホンを押した。
「今は一切、何も詮索すんなよ」
とたった一言を添えて。
2度、3度、インターホンの音が響いたあとに、ようやくドアの向こう側に人の気配がして、声が返って来た。
「……誰?」
やっぱり、鞠子の声だった。
「あ……あのっ」
と返事をしようとしたおれを肘で横に突き、菊地先輩がドアに顔を近づける。
「菊地先輩……ここ、鞠子の家じゃないんじゃないですかね」
どうしても、こんなところにあの鞠子が住んでいるなんて、おれには想像もつかなかった。
「いや、たぶん、鞠ちゃんちだ」
と菊地先輩が2階を指さした。
見上げてみると、2階の一室にだけこんもりとした弱い弱い明りが灯っていて。
「……あ」
そのベランダには、見覚えのあるTシャツがぶら下がっている。
緩い夜風にはたはたと音をたてて、Tシャツが揺れていた。
練習中、鞠子が着ている【桜花大附】の文字がバックプリントされているTシャツだった。
鞠子の家だ。
認めたくはなくとも、必然的に、認めざるを得なかった。
「先輩……」
「うん」
「鞠子の親って、何やってる人なんですかね」
「何で」
「だって、この家、荒れ放題じゃないですか」
「うん」
「うん、て……だって、さっきのおじいさんも変なこと言ってたじゃないですか。若い女性がひとり、って。おかしくないで――」
「平野」
菊地先輩に呼ばれて、反射的に言葉を飲み込んだ。
「詳しい事は、後で説明するから」
「……どういう意味ですか」
「とにかく、後でちゃんと説明するから」
それだけ言って、菊地先輩はインターホンを押した。
「今は一切、何も詮索すんなよ」
とたった一言を添えて。
2度、3度、インターホンの音が響いたあとに、ようやくドアの向こう側に人の気配がして、声が返って来た。
「……誰?」
やっぱり、鞠子の声だった。
「あ……あのっ」
と返事をしようとしたおれを肘で横に突き、菊地先輩がドアに顔を近づける。