君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「毎度! さくらクリーニングですう! 頼まれていた物、お届けにあがりましたーあ」


かく、とずっこけてやろうかと思った。


「先輩。何ふざけてんすか……」


ひそひそ小声で突っ込むと、うっせえな、と菊地先輩も小声で反撃して来た。


「一回、やってみたかったんだよ」


「……ふざけてる場合じゃないっすよ」


「わりいわりい」


次の瞬間、


「頼んでいません!」


悪戯はやめて下さい、警察呼びますよ、とつっけんどんな声が返って来て、菊地先輩がぱっと真面目な顔つきになった。


「待って! おれだよ、鞠ちゃん」


しん、と静まり返る。


「ごめん、突然。おれだよ、菊地先輩だよ!」


しかし、反応はない。


「ええと……菊地、大輔という者なんですけど」


決して怪しい者ではございません、と遠慮がちに先輩が言った時だった。


ガチャン、と施錠が外れた音がして、ドアがほんの数センチばかり開いた。


「よ、よーす! 鞠ちゃん!」


敬礼のポーズを取りながら、菊地先輩が明らかに引き攣り顔になる。


「……本当に、菊地先輩だ……どうして?」


鞠子の声だ。


「どうして、家が分かったんですか?」


警戒心たっぷりの、鞠子の声だった。


「あ……千夏から聞き出した。ごめん、勝手に。あ、覚えてる? 千夏……」


ぎくしゃくしながら先輩が肩をすくめたその瞬間、


「菊地先輩! どうしよう、わたしっ」


唐突にドアが開いて、鞠子が飛び出して来た。


「わたし、修司に言っちゃったんです!」


黒いハーフパンツに、真っ白なポロシャツ。


部活着姿のままの鞠子が裸足で飛び出して来て、衝突する勢いで菊地先輩に掴みかかる。


「どうしよう!」


「あ、ああ。うん、まあ、落ち着いて」


ね、と菊地先輩が小さな体を受け止めながら苦笑いした。


「落ち着こう。大丈夫だから」


「でも、どうしよう! 明日から、どんな顔すればいいのか分かりません! 助けて、先輩!」


鞠子は相当興奮しているようで、横におれが居る事にすら気づく気配は微塵もない。


「何で言っちゃったんだろう」


と、鞠子は菊地先輩の腕にしがみついた。

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