君に届くまで~夏空にかけた、夢~
他の野手のバックアップの確実性も。


強烈なゴロ裁きも、フライ、低飛行してくるライナーの処理も。


ダイビングキャッチをする時の、打球への執着心も。


それから。


送球コントロールの精度なんて、特に。


「先輩くらい信頼されてるセンターはいないと思います。先輩の代わりを務めあげられる人は」


いないと思います、その一言を飲み込んでうつむくと、即座に頭をべしっと叩かれ、


「ここにいんじゃねえか。ばかやろうが」


え、と顔を上げる。


叩かれた部分がじんじん痺れるように痛い。


「まじであんちくしょうだな、お前は」


菊地先輩の瞳に夏の月が小さく映り込んでいて、潤んでいるうように見える。


「あの! あの守備位置から!」


と菊地先輩が夜のグラウンドの奥を指さす。


おれたちの守備位置だ。


そして、そのまま横に移動した人差し指は、ホームを指した。


「あそこまで!」


ごくっと息を飲み込んだ。


菊地先輩は興奮気味に声を上ずらせた。


「ノーカットで! ダイレクトで! どんぴしゃり! 正確な送球する中堅手! 今のところ、お前だけだろうが!」


「……おれ、ですか」


「お前しかいねえだろ。平野」


「そう……なんですか?」


「こんのどあほうが!」


どべし、と後頭部にもう一発お見舞いされて、


「少なくとも俺は平野のズバ抜けた肩の強さとコントロールに信頼を置くひとりだ」


そう言われて、はた、と目が覚める。


唐突に胸が熱くなった。


「監督もコーチも、桜花に欲しいと思ったから、わざわざ頭下げに行ったんだろ。必要ねえような奴んとこに頭下げに行く指導者なんかいねえよ」


自信持てよ、と言われてマグマのように燃え滾る何かが、胸の奥底からぐわっと突き上げた。
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