君に届くまで~夏空にかけた、夢~
ばあちゃんは、おれが小学校4年生で野球部に入ってから毎日、どろんこユニフォームや練習着を洗ってくれた。


夏も、冬も、毎日。


夏は汗だくになっても、冬は手が真っ赤になっても、洗濯機で洗う前に必ず一度手洗いをしてくれた。


ばあちゃんが洗ってくれたユニフォームは、いつだって真っ白だった。


練習試合の時も、大会の日も、朝起きるとすでに弁当は出来上がっていて。


おれの大好きなじゃこ入りの卵焼きが必ず入っていた。


試合で負けた日の夕飯は、決まって特大のカツ丼。


次の試合は絶対勝てるよ、そう言って。


ばあちゃんは、いつもおれのことばっかで、じいちゃんの世話なんかしない。


修司、修司、修司、おればっか。


そんな優しいばあちゃんが泣いているのに、それでも、譲れなかった。


諦めるなんて、できなかった。


「ばあちゃん、ごめん。おれ、諦めらんねえや」


晴天の霹靂。


今こそ使わずして、いつ使うっていうんだ。


奇跡と言っても過言ではない大チャンスが、たぶん一生に一度きりの特大チャンスが、突然、目の前に転がって来たのに。


あとはこの手を伸ばしてつかむだけなのに。


そこにあるのに。


それをどうやって諦めろっていうんだよ。


じいちゃんは口を真一文字に結んで、腕組みをしたままちゃぶ台の上をじっと睨んでいる。


「けど、諦めらんねえよ、こんなチャンス」


と言ったのはおれじゃなくて、隣に座る響也だった。


「他でもない桜花から声がかかったんだぜ。あっさり蹴るバカ、どこにもいねえよ」


響也……。


「同感」


と、いつもふざけてばかりいる健吾が真面目になると、妙な迫力がある。
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