君に届くまで~夏空にかけた、夢~
フイ―、と息を吐き出す。


今日は目まぐるしい一日だった。


よく分からないうちに終わろうとしている。


突然現れた、大高と名乗った変な男。


長い髪の毛をバッサリ切った鞠子からの唐突な告白。


そして、彼女が背負っている過去。


菊地先輩の苦渋の末の決断。


「負けてたまるか」


そして、この平野修司にも、今夜の月のように明明とした明確な決意が生まれたのだ。


男の意地、見せてやろうじゃねえか。


センター、掴んでやる。


もう一度、深呼吸をした。


右手を夜空にかざす。


初めて部室で鞠子に会った日のあの言葉が、不意に耳の奥によみがえった。


修司の手なら、あの空もつかめそうだね。


じゃあ、掴んでみせる。


この手で、いつか、必ず。


絶対。


夢を掴んでみせる。


見上げた夜空は思いのほか眩しくて。


今にも夏の星座たちがバラバラ降って落ちて来そうで。


やっぱり、胸が熱く燃えてしょうがなかった。


「風呂、飯、寝る!」


おれは帽子を深く深くかぶった。













部屋に戻るともう10時近くで、電気を付けたまま誉が大いびきをかいて熟睡していた。


網戸から夜風が入って来て、カレンダーをかさかさめくった。


おれは何よりも先に携帯電話を手にし、やっぱり寝ているんだろうなと分かっていながらも、電話を掛けていた。
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