君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「おれ、こっちさ来る前に、じいちゃんとばあちゃんさ言い忘れでだ事あるんだ」


『ほう……なんだべ』


おれは、案外、あまったれだから。


今、宣言しとかないと、また言えずじまいになりそうだから。


「畑仕事も田んぼもいいけどや、ほどほどにな。あっちーがらちゃんと水飲めや。あど、飯もいっぺえ食ってや。まずあれだ、怪我すんなよ」


はっきり言って、おれは頭が良いわけじゃないから、勉強ができるわけでもない。


まだ、将来はどんな仕事をするかなんて考えた事もない。


ただ漠然と野球の事ばかり考えている。


野球しか頭にない。


まだ16歳で金なんてないし。


じいちゃんとばあちゃん残して寮に入って、大好きな野球にどっぷり浸からせてもらっている。


ふたりに何かしてやりたくて歯がゆいのに、いい考えひとつ浮かばない。


でも、ひとつだけ。


これならできるかもしれない、とさっき気付いた。


「ばあちゃん、明日、じいちゃんにも言っといでな」


もし、このおれに今できるとしたら。


ふたりに返せるものがあるとすれば。


「とにかく、長生きしてくれ」


『なんだあ、おめえ。そったらごど言うどって電話してきたんだが』


とばあちゃんは笑った。


「そったらごどでねえべ。頼むがら、長生きしてよ」


ちょっとしわくちゃでよぼよぼなんだけど。


おれの大事な“両親”に恩返しができるとしたら。


今のとこ、これしかねえ。


「おれな、絶対レギュラーになって背番号もらうがらよ。その時は、試合観に来てな」


ひとつしかねえよ。


「おれが、じいちゃんとばあちゃん、甲子園球場さ連れで行ぐがらな!」
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